家があいていたから、私が時々|寝《やす》みに行くだけですの。」
 銀子は何とかかとか言って否定しつづけたが、博士は栗栖がこのごろ仕事が手につかず、手術を怠けるので、県立病院にも穴があき、自分の立場も困るからと、だんだん事情を訴えるのだったが、一旦否定したとなると、銀子も今更恥を浚《さら》け出す気にはなれず、博士をてこずらせた。
「君があくまで否定するとなると、遺憾《いかん》ながらこの話は取消だね。君はそれでもいいのかね。それとももう一度考え直して、実はこれこれの事情だからこういうふうにしたいとか、私たち第三者の力で、何とか解決をつけてもらいたいとか、素直に縋《すが》る気持にはなれないものかね。」
 博士は噛《か》んでくくめるように言うのだったが、銀子は下手に何か言えば弁解みたようだし、うっかり告白してしまった時の後の気持と立場も考えられ、終《しま》いに口を噤《つぐ》み硬《かた》くなってしまった。博士も、堪忍袋の緒を切らせ、ビールの酔いもさめて蒼《あお》くなっていた。

      十九

「裁かるるジャンヌ」を見て来た一夜、ちょうどそれが自分と同じ年頃の村の娘の、世の常ならぬ崇高な姿で
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