るための智慧《ちえ》だと考え、気が動いた。
「清元のお師匠さんよ。」
 この師匠が東京から流れて来て、土地に居ついた事情も親父は知っていた。
「うむ、あの師匠か。子供があるじゃないか。」
「女の子だからいいでしょう。」
「お前話してみたのか。」
「ううん、お父さんよかったら、今日にでも話してみるつもりだわ。いい?」
「ああいい。お前のいいようにしろ。」
 親父も頷《うなず》いた。
 ちょうど山姥《やまうば》がもう少しで上がるところで、銀子はざっと稽古《けいこ》をしてもらい、三味線《しゃみせん》を傍《そば》へおくかおかぬに、いきなり切り出してみた。かつて深川で左褄《ひだりづま》を取っていた師匠は、万事ゆったりしたこの町の生活気分が気に入り、大弓場の片手間に、昔し覚えこんだ清元の稽古をして約《つま》しく暮らしているのだったが、深川女らしく色が黒く小締まりだったが、あの辺の芸者らしい暢気《のんき》さもあった。
「今日はお師匠さんにお話があるんですけれど……。」
 銀子は切り出した。
「そう。私に? 何でしょうね。」
「お師匠さん。家《うち》のお嫁さんに来てくれません?」
「私が? お宅の後妻
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