るものは、少し頭を下げて行きさえすれば、金はいくらでも融通してくれる人もあり、その中には出先の女中で、小金を溜《た》めているものもあり、このなかで金を廻して、安くない利子で腹を肥やしているものもあったが、ともすると弱いものいじめもしかねないことも知っているので、たといどんな屋台骨でも、人に縋《すが》りたくはなかった。ともかく当分自前で稼《かせ》ぐことにして路次に一軒を借り、お袋や妹に手伝ってもらって、披露目《ひろめ》をした。案じるほどのこともなく、みんなが声援してくれた。
「ああ、その方がいいよ。」
見番の役員もそう言って悦《よろこ》んでくれ、銀子も気乗りがした。
「大体あんたは安本《やすもと》を出て、家をもった時に始めるべきだった。多分始める下工作だろうと思っていたら、いつの間にかあすこを引き払ってアパートへ移ったというから、つまらないことをしたものだと思っていたよ。」
その役員がいうと、また一人が、
「それもいいが、子供のある処へ入って行くなんて手はないよ。第一三村さんは屋敷まで担保に入っているていうじゃないか。」
銀子は好い気持もしなかったが、息詰まるような一年を振りかえる
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