》の靴に限るという向きもあって、註文《ちゅうもん》は多いのであった。靴紐《くつひも》や靴墨、刷毛《はけ》が店頭の前通りに駢《なら》び、棚《たな》に製品がぱらりと飾ってあったが、父親はまだ繃帯《ほうたい》も取れず、土間の仕事場で靴の底をつけていた。
「もういいの。」
「ああお前か。まだよかないけれど、註文の間に合わそうと思って、今日初めてやりかけの仕事にかかってみたんだが、少し詰めてやるてえと、頭がずきんずきん痛むんでかなわねえ。」
 内を覗《のぞ》いてみると、あいにく誰もいなかった。
「誰もいないの。」
「お母さんは巣鴨《すがも》の刺《とげ》ぬき地蔵へ行った。お御符《ごふ》でも貰《もら》って来るんだろう。」
 父親はそう言って仕事場を離れ、火鉢《ひばち》の傍《そば》へ上がって来た。
「時ちゃんや光《みっ》ちゃんは?」
「時ちゃんたちは、小山の叔母《おば》さんとこへ通ってる。あすこも大きくしたでね。」
 小山の叔母さんというのは、母親が十三までかかっていた本家の娘の市子のことであった。市子はその時分|日蔭者《ひかげもの》の母親が羨《うらや》ましがったほど幸福ではなく、縁づいた亭主《ていし
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