々の行事になってしまったが、見る後から後から筋や俳優を忘れてしまうのであった。物によると見ていて筋のてんで解らないものもあって、彼女の解説が必要であった。
「さあ、もう遅いだろ。」
「そうね、じゃ早く帰って風呂《ふろ》へ入りましょう。」
銀子はでっくりした小躯《こがら》だが、この二三年めきめき肥《ふと》って、十五貫もあるので、ぶらぶら歩くのは好きでなかった。いつか奈良《なら》へ旅した時、歩きくたぶれて、道傍《みちばた》の青草原に、べったり坐ってしまったくらいだった。
銀子は途々《みちみち》車を掛け合っていたが、やがて諦《あきら》めて電車に乗ることにした。この系統の電車は均平にもすでに久しくお馴染《なじみ》になっており、飽き飽きしていた。
五
銀子の家《うち》は電車通りから三四町も入った処《ところ》の片側町にあったが、今では二人でちょいちょい出歩く均平の顔は、この辺でも相当見知られ、狭いこの世界の女たちが、行きずりに挨拶《あいさつ》したりすることも珍しくなかったが、均平には大抵覚えがなく、当惑することもあったが、初めほどいやではなくなった。それでも何か居候《いそうろ
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