い》も幾つかあった。
 銀子の出たのは、藤本《ふじもと》という、土地では看板の古い家で、通りから少し入り込んだ路次の一軒建てであったが、下の広々した玄関の上がり口の奥に、十畳の部屋があり、簿記台や長火鉢《ながひばち》、電話も廊下につけてあり、玄関|脇《わき》の六畳と次ぎの八畳とで、方形を成した二階屋であったが、庭づたいに行ける離れの一|棟《むね》も二階建てであった。周囲は垣根《かきね》で仕切られ、庭もゆっくり取ってあった。のんびりした家の気分が目見えに行った途端、すっかり銀子の気に入ってしまったのだったが、主人の方でもいくらか、他の抱え並みには見なかった。
 主人は夫婦とも北海道産まれで、病気で奥の八畳に寝ている主婦の方が、五つ六つも年嵩《としかさ》の、四十六七にもなったらしく、髪も六分通りは白く、顔もうじゃじゃけていたけれど、笑い顔に優しみがにじみ、言葉は東京弁そっくりで、この稼業《かぎょう》の人にしては、お品がよかった。前身は解《わか》らなかったが、柔道家の娘だという噂《うわさ》を、抱えの姐《ねえ》さんがしているのは真実《ほんとう》らしく、丈夫の時には、呑助《のみすけ》の親爺《おや
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