ふらず働いているうちに、野山に幾度かの春が来たり秋がおとずれて、やがて二十三にもなった。彼女の肉体は熟《みの》り、真白の皮膚は硬《かた》く張り切り、ぽったりした頬《ほお》は林檎《りんご》のように紅《あか》かった。
 銀子の父親はちょうどその時分、やくざの世渡りを清算し、同じやくざ仲間で、いくらか目先の見える男が、東京で製靴《せいか》の仕事で、時代の新しい生活を切り開き、露助《ろすけ》向けの靴の輸出を盛大にやっていたのを手寄《たよ》り、そこでその仕事をおぼえ、田舎《いなか》へ帰って小さな店をもっていた。同じ真綿工場の持主であった彼の嫂《あによめ》は、不断銀子の母親の働きぶりを見ていたので、その眼鏡に※[#「※」は「りっしんべん+「篋」から「竹」を除いた形」、第3水準1−84−56、377−上14]《かな》い、彼を落ち着かせるために、彼女を娶《めあわ》せた。
 しかしこの結婚も甘美とは行かず、半年もたたぬうちに彼の前生活について、そっちこちで悪い噂《うわさ》が耳に入り、そのうち放浪時代から付き絡《まと》っていた、茨城《いばらき》生まれの情婦が現われたりして、彼女が十年働いて溜《た》めた貯金
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