とうげ》を越え、ようやく上州路へ辿《たど》りつくのだったが、時には暗夜に樵夫《きこり》の野宿しているのに出逢《であ》い、年少の彼女は胸を戦《わなな》かせた。案内者は味噌《みそ》の入った握飯を、行く先々で用意し、餓《う》えを凌《しの》ぐのだったが、そこまで来るともう安心で、前橋へ入って来たところで、彼は各自の希望を訊《き》き、ここに留《とど》まるものは、この町の桂庵《けいあん》に引き渡し、東京を希望のものは、また上野まで連れて行くことになっていた。
 銀子の母は、手堅い家で給銀の出る処《ところ》という希望だったので、一軒の真綿屋へ落ち着くことになり、やっとほっとした。気強く生まれついていたので、なまじい互いに知り合った村で、惨《みじ》めな姿を見られているよりも、見ず知らずの他国の方がずっと自由であり、初めて働き効《がい》のあるような気がするのであった。
 真綿は繭《まゆ》を曹達《ソーダ》でくたくた煮て緒《いとぐち》を撈《さぐ》り、水に晒《さら》して蛹《さなぎ》を取り棄《す》てたものを、板に熨《の》して拡《ひろ》げるのだったが、彼女は唄《うた》一つ歌わず青春の甘い夢もなく、脇目《わきめ》も
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