の年になっては、どこへ行っても使ってくれ手はなかった。
二人が席を立つと、後連《あと》がもうやって来て、傍《そば》へ寄って来たが、それは中産階級らしい一組の母と娘で、健康そのもののような逞《たくま》しい肉体をもった十六七の娘は、無造作な洋装で、買物のボール箱をもっていた。均平は弾《はじ》けるような若さに目を見張り、笑顔《えがお》で椅子《いす》を譲ったが、今夜に限らず銀座辺を歩いている若い娘を見ると、加世子《かよこ》のことが思い出されて、暗い気持になるのだったが、同窓会の帰りらしい娘たちが、嬉《うれ》しそうに派手な着物を着て、横町のしる粉屋などへぞろぞろ入って行くのを見たりすると、その中に加世子がいるような気がして、わざと顔を背向《そむ》けたりするのだった。加世子が純白な乙女《おとめ》心に父を憎んでいるということも解っていた。そしてそれがまた一方銀子にとって、何となし好い気持がしないので、彼女の前では加世子の話はしないことにしていた。そのくせ銀子は内心加世子を見たがってはいた。
「いいじゃないの。加世子さん何不足なく暮らしているんだから。」
加世子の話をすると、均平はいつも凹《へこ》
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