と結婚もしたのであったが、内面的な悲劇もまたそこから発生しずにはいなかった。

      四

 ここでは酒が飲めないので、均平は何か間のぬけた感じだったが、近頃はそう物にこだわらず、すべてを貴方《あなた》まかせというふうにしていればいられないこともないので、酒の払底な今の時代でも、格別不自由も感じなかった。もちろん心臓も少し悪くしていた。こうした日蔭者《ひかげもの》の気楽さに馴《な》れてしまうと、今更何をしようという野心もなく、それかと言って自分の愚かさを自嘲《じちょう》するほどの感情の熾烈《しれつ》さもなく、女子供を相手にして一日一日と生命を刻んでいるのであった。時にははっとするほど自分を腑効《ふがい》なく感じ、いっそ満洲《まんしゅう》へでも飛び出してみようかと考えることもあったが、あの辺にも同窓の偉いのが重要ポストに納まっていたりして、何をするにも方嚮《ほうこう》が解《わか》らず、自信を持てず、いざとなると才能の乏しさに怯《おじ》けるのであった。四十過ぎての蹉跌《さてつ》を挽回《ばんかい》することは、事実そうたやすいことでもなかったし、双鬢《そうびん》に白いものがちかちかするこ
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