きっと何かの間違だろうッてんで向へ聴合せたんだ。すると教官の方から疑わしいと思うなら、試してくれろっていう返辞なので、連れてって遣《やら》して見るてえと、成程|技《わざ》はたしかに出来る。こんな成績の好いのは軍隊でも珍らしいというでね……
 それだから秋山大尉を捜すについちゃ、忰も勿論呼出されて、人選に加わったと云う訳なんで……
 それで三十人の兵士は一度に河へ飛び込んだ。けど何しろ時間が経っている。それに河巾も広い、深さもなかなか如何して深い河だ。いくら捜しても、迚《とて》も見つかりっこはありゃしねえと云んで、皆なまあ一時引揚げることにして錨を流して見ることになったんだ。
 処が人数を調べてみると、上等兵の大瀬だけが一人揚って来ねえ。そいつは大変だと云うんで、また忰を捜すと云う騒ぎだ。だが、何処を捜しても姿が見えねえ。……何でも秋山さんは深い水の底にあった、大きな木の株に挟まっていたそうでね、忰は首尾よく秋山さんを捜しあてたにゃ当てたけれど、体へ掴まられたんで、どうにも恁《こう》にも足※[#「足+宛」、第3水準1−92−36、163下−12]《あがき》が取れなくなって了ったものなんだ
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