左《と》に右《かく》兄弟も親類もあることでござえますから、死骸を引取らして頂いて、一ト晩だけは通夜をしてやりとうごぜえんすと、恁う申しあげましたんです。
それでまア、本郷の山本まで引取るなら、旗が五本に人足が十三人……山本と申すのは、晴二郎の姉の縁先きなんでして、その時の棺側が、礼帽の上等兵が四人、士官が中尉がお一人に少尉がお一人……尤も連隊から一里のあいだは、その外に旗が三本、蓮花が三本、これは其処まで落すことになっているんで……。
その日は、それで一里のあいだ皆さんに送って頂いて、後は車に積んで元町まで持込んで来ました。
その翌日が愈々此処で葬礼と云うことなんで、その時隊の方から見送って下さったのが三本筋に二本筋、少尉が二タ方に下副官がお一方……この下副官の方は初瀬源太郎と仰也って、晴二郎を河から引揚げて下すった方なんでござえして、何かの因縁だろうから、殊に終まで面倒を見てやれと云う連隊長からのお言葉だったもんですから、まア色々とお世話をして下すったんですよ。
その日の骨あげには、兵士一小隊見送りに来る筈でござえしたが、これが丁度九月の二十一日で、二十五日には×××の連隊も
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