いよいよ戦地へ出発しなくちゃならねえんで兵士を繰出している訳にいかねえで、それだけお廃《や》めになりましたがね、それでも四十人だけ手のすいてる方が、寺まで来て下すったと云う話でござえしたよ。それから此方じゃ、区長、兵事掛。兵事義会の重立ち、何でも礼服を着た方が三|方《かた》か四|方《かた》送って下すった。
職業は瓦屋でござえんすけれど、暫らくでもお上の役を勤めていたばかりで、大層お手厚い葬礼でね。此方とらの餓鬼が、屋根から落ちて死んだって、誰方か何といって下さるものけえ。
その日、初頼という方が、持って来た下すった香奠が、将校方から十五円、兵士一同から二十円……これは皆さんが各々の気心で下すったもので、兵士方は上官から御内意があって、一人につき二銭から三銭のがなれど、人数にすれば二十と云う金高になるといった訳で。他に兵事義会から十円……それから大将の屋敷から十円、秋山大尉の親御から五円……何でも一切で百円はござんしたろう。
それから、確か二十三日の日でござえんしたろう、×××大将の若旦那、これはその時分の三本筋でしてね、つまり綾子さんの弟御に当るお方でさ。その方と秋山さんの親御が
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