けて、吾妻さんとこへ遣つた処ですから。その結果を聞きに、吾妻さんとこへ行つて、今帰つて来たところですよ。」
「金をやつてないのか。」
「え、あの時は怒つて貰はないと言つたとかで、その儘《まゝ》になつてゐるやうですよ。今度はもつと大きく吹きかけてゐるらしいんです。」彼女は泣き出しさうな顔で口惜しさうに言つた。
「あんなに又金をほしがる奴はないからね。」
「なか/\片づきませんよ。確かに誰かついてゐるんです。」
「どんな身装《なり》で来た。」
「え、それでも子供には縮緬《ちりめん》なんか着せてね。」
「それだと厄介かも知れないね。困つてゐると遣りいゝが。」
 その翌日から磯村は妻の険悪を感じた。磯村以上にもそれが胸の痞《つかへ》になつてゐることは判つてゐながら、彼女の態度を見ると、余り感じが好くなかつた。彼は出来るだけ口を利かないことにしてゐた。
 で、今朝も彼は用事を女中たちに足してもらふことにしてゐた。花が咲くのにまた不愉快な日がつゞくのかと思ふと、頭脳が憂欝になつた。
「どこかへ行つてしまはう。」彼はさうも思つた。
 勿論仕事の都合さへできれば今年は吉野の花を見に行かうなぞと思つてゐ
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