、うんざりしてしまつた。やつぱり本当に解決がつかなかつたのだと思つた。
「子供をつれて来ましたよ。」と、妻はわざと突きつけるやうな調子で言つた。で、何《ど》の子供かと思つて、磯村が問ひ返すと、それは大きい方の子だと言ふので、いくらか安心した。勿論小さい方の子にしたところで、それが自分の子であるか何うかは、その時の彼女の身のまはりを、一応取調べる必要もあるのであつたが、何だか似てゐるやうにも思へるので、それを自分に見るのは無論不愉快だつたが、連れてまで来られるのは、慄然《ぞつ》とするほど厭であつた。勿論それは多分地震のために、人間の感情が、総《すべ》て放散的に、密度を稀薄にされてゐるせゐもあつたが、一つは一年と云ふ時日が、彼の悩みを緩和してゐた。そんな事のために頭脳《あたま》を苦しめることの馬鹿々々しいことは、彼にもはつきり判つてゐた。
「随分づうづしい女ですよ。自家《うち》でもべちやくちやと、厭がらせを言つて行きましたが、吾妻《あづま》さんのところでも、随分色々なことを言つたさうですよ。まるで此の家が自分の家でもあるやうに、……私が好い着物を着てゐたとか、何かが殖えてゐるとか、私松をつ
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