の、海軍大佐のところへ、金を無心に行くらしいんです。その支度や旅費や何かでね。どうも方々|簗《やな》をかけておくですからな。大佐も毎月養育料を取られてゐるうへに、時々大きく持込まれるらしいんで、他所事《よそごと》ながら、お察ししますよ。」吾妻はさう言つて笑つた。
「だが、そんなに質《たち》のわるい女でもありませんね。家内が色々に言つて聞かしたら、すつかり其の気になつたらしいんです。子供も手放すらしいです。」
「子供を実際もつてゐるんですか。」磯村はきいた。
「もつてゐますとも。連れて来たのがさうですもの。」吾妻は答へた。
磯村の妻は「さうでしたか。」と言つて※[#「りっしんべん+兄」、第3水準1−84−45]《とぼ》けてゐたが、実を告げなかつた彼女の気持は磯村にはわかつてゐた。
「それも奥さんの気持が素直だからですよ。あの女をそこまで宥《なだ》めていくのは、大抵ぢやありませんね。」磯村はさう言つて夫人に感謝した。
「全くですわ。どうせ貴女《あなた》にしれたからは、私も公然《おほびら》に子供をつれて、是からちよく/\伺ひますなんて、私も腹が立ちました。」
「えゝさうですわ。自分の子供を
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