いた。どろどろした彼の苦悩が、それらの手紙に吐け口を求めたものだったが、投函《とうかん》した後ですぐ悔いるようなものもあった。葉子が還《かえ》るものとも還らないものとも判断しかねるので、それの真実の探求への心の乱れであり、魂の呻吟《しんぎん》でないものはなかった。しばしば近くの友達を訪れて、話しこむこともあった。
 雨の降るある日、彼はある女を憶《おも》い出した。妻の位牌《いはい》に、あのころ線香をあげに来た、あの女性であった。その女から待合開業の通知を受け取ったのは、もう大分前のことであった。御馳走《ごちそう》になり放しだったし、さまざまの世界を見て来た彼女の話も聴《き》きたかった。酷《ひど》い雨だったけれど、雨国に育った彼にはそれもかえってよかった。
 タキシイで、捜し当てるのに少し暇を取ったが、場所は思ったより感じがよかった。
「お神さん御飯食べに銀座へ行っていますけれど、じき帰って来ますわ。まあどうぞ。」
 庸三は傘《かさ》をそこにおいて、上がった。そして狭い中庭に架《か》かった橋を渡って、ちんまりした部屋の一つへ納まった。薄濁った大川の水が、すぐ目の前にあった。対岸にある倉庫
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