ら、調べてもらえばきっと知れますがね。」
「いや、そんなにしなくたって……。」
「いずれそのうち現われるでしょうけれど。」
そう言って、一色はしばらく話しこんでから、警察の人への紹介を名刺に書いたりして、帰って行った。
翌日の午後、庸三は神田の方へ出向いて行った。何ということなし子供も一緒だった。そして猿楽町辺をぶらぶら歩きながら、二三軒の旅館を訪ねてみたが、子供に興味のあるはずもないので、古本屋をそっちこっち覗《のぞ》いてから、神保町《じんぼうちょう》の盛り場へ出てお茶を呑《の》んで帰って来た。まだそのころは映画も思わせぶりたっぷりな弁士の説明づきで、スクリンに動く人間に声のないのも、ひどく表情を不自然なものにしていたので、庸三はわざわざ活動館へ入りたいとは思わなかったし、喫茶店にも興味がなかったが、子供とではたまにそういう処《ところ》へも足を容《い》れるのであった。
翌朝庸三は持越しの衝動的な気持で、駿河台《するがだい》の旅館街を彷徨《ほうこう》していた。
ずっと以前に、別れてしまった妻を追跡して、日光辺の旅館を虱潰《しらみつぶ》しに尋ねて、血眼で宿帳を調べてあるき、到
前へ
次へ
全436ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング