かというと姉を頼りにするようなものばかりであった。それに子供の面倒を見てくれているのが、お人好しの加世子の母だったので、庸三はどうかすると養子にでも来ているような感じがした。そうした因縁を断ち切るのは、相当困難であった。子供が殖《ふ》えるにつれて、彼女も次第に先きを考えるようになり、末の弟を頼みにしていたのだったが、葉子が入って来てからそれらの人らは一時に姿を消してしまった。庸三は長いあいだの荷物を卸して、それだけでもせいせいした気持だったが、当惑したのは子供のために頑張《がんば》ろうとした姉と葉子との対峙《たいじ》であった。もちろん一家の主婦が亡くなったあとへ来て、茶の室《ま》に居坐るほどのものが、好意だけでそうするものとはきまっていなかった。放心《うっかり》していると、ふわりと掩《お》っ冠《かぶ》さって来るようなこともしかねないのであった。
「君いい家庭婦人になれると言うなら、食べもの拵《ごしら》えもしてみるといいよ。」
秋田育ちの葉子は食べ物拵えにも相当趣味をもっている方であったが、その時台所へ出て拵えたものは、北海道料理の三平汁《さんぺいじる》というのであった。葉子は庸三に訊
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