づくこともできた。しかし一度失業すると、小遣《こづかい》取りの口に有りつくのは容易でなかった。そのうち庸三の長女に仏蘭西語《フランスご》を教わり出したが、いつも寂しそうに見える庸三のために、葉子の近頃の消息を伝えたりもした。彼も久しく葉子を見ないと心が渇《かわ》くのであった。彼の話によると、葉子がまだ下宿している去年の冬時分、彼女は北山や瑠美子をつれて、時々番町にある清川の家《うち》を訪問していた。レコオドをかけたり、瑠美子を踊らせたり、いつも賑《にぎ》やかな談笑に花が咲いていた。そう聞くと、庸三も自分に対するひところの彼女の硬張《こわば》った気持もわかるのであった。
 ある日も史朗は葉子を見に行って来た。彼はたまには葉子に貰った小遣をポケットに入れているのだったが、庸三の想像では、清川の生活は相当豊富なもののように思えたし、今度の恋愛事件では、かなりな金を家から持ち出したに違いないと思っていた。庸三から見ると、二人の幻影は、それほどにも豪華に見えるのであった。コンビとしても申し分がなかった。もちろんそれは清川が、完全に家庭に叛逆《はんぎゃく》したと見られる場合のことであった。
 史朗
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