《もた》れて、順々に荷物の積まれるのを見ていたが、小池の采配《さいはい》ですっかり積みこまれ縄《なわ》がかけられるのを見澄ましてから、煙草《たばこ》を一本取り出して喫《ふか》しはじめ、車の引き出されるのを待っていた。この期《ご》になって、にわかに金も惜しくなったが、 二人の顔も見たかった。庸三は車の動く方嚮《ほうこう》を見澄まし、少し間をおいてから下へおりて行ったが、外へ出てみた時には、荷車はすでに水道橋から一つ橋へ通う大道路を突っ切っていた。
その辺は庸三も葉子と一緒に、しばしば自動車を乗り棄《す》てたり、呼び止めたりしたところで、夜おそくそのころ売り出しのブロチンやパンを買いに出たのもそこであった。
一二町の距離をおいて、庸三は見え隠れに従《つ》いて行ったが、車の後になり先になりして、従いて行くのは葉子のトイレット・ケイスをぶら下げた少年詩人ばかりではなく、鷺《さぎ》のように細い脚をした瑠美子もいたし、お傅《つき》の北山も片手に風呂敷包《ふろしきづつみ》をもち、片手に瑠美子を掴《つか》まらせて、あっち寄りこっち寄りして、ふざけながら歩いていた。町はもう日暮に近く、寒い風が庸三の
前へ
次へ
全436ページ中399ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング