煙草《たばこ》の煙を吐いていた。
「恐るべき女たち。」
 庸三は思いながら蒲団《ふとん》をかぶった。

 秋もようやくたけなわなころに、二人は紅葉《もみじ》を探りに二三日箱根へ旅してみたが、帰って来たころには、葉子の懐ろも大分寂しくなっていた。
 二人は燃え立つ紅葉の錦《にしき》に埋《うず》まっている、小涌谷《こわくだに》の旅館に落ちついたが、どうせそのうちに低気圧は来るものとして、今日の日は今日の日だと肚《はら》をきめている庸三も、どうかすると薊《あざみ》の刺《とげ》のようなものの刺さって来るのを、いかんともすることができなかった。ある時は少年のように朗らかに挙動《ふるま》い、朝の森に小禽《ことり》が囁《さえず》るような楽しさで話すのだったが、一々|応《う》け答《こた》えもできないような多弁の噴霧を浴びせかけて、彼を辟易《へきえき》させることがあるかと思うと、北の国の憂鬱《ゆううつ》な潮の音や、時雨《しぐ》らんだ山の顰《ひそ》みにも似た暗さ嶮《けわ》しさで、彼を苛《いら》つかせることもあり、現実には疎《うと》い文学少女でありながら、商売女のように、機敏に人を見透かしもするのであった。
前へ 次へ
全436ページ中372ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング