の家で遊んでいた。田舎《いなか》丸出しの女中たちの拵《こしら》えてくれる食膳《しょくぜん》に向かうことも憂鬱《ゆううつ》だったが、出癖もついていたせいで、独りで書斎にいると、四面|楚歌《そか》のなかで生きている張り合いもないような気もした。しかしまた人知れぬ反撥心《はんぱつしん》もあって、まだ全く絶望しているのではなく、今までの陰鬱な性格に変化が来るようにも思えた。本を読んでも、今までわからなかったことに新しい興味が出て来たり、熱に浮かされていた青年時代のそれと異《ちが》って、しっくり心と心と取り組めるような感じだった。新規|蒔直《まきなお》しには年を取りすぎた嘆きがあり、準備をするには何から手をつけていいか、今さら見当もつきかねるのだったが、何らかの補足はできそうに思えた。未練がましく生きる醜さにも想い到《いた》ったが、天才の真似《まね》をし損《そこな》いたくもなかった。そんな時生活の裕《ゆた》かな老友の書斎にいると、心境と環境がまるで異っているだけに、いくらか気分が落ちつくのだった。
「また何かあるよ。生活には困らないが、独りも寂しいといったような女も沢山いるよ。」
友人は言うの
前へ
次へ
全436ページ中364ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング