》したような態度で、彼女は机の傍《そば》へ寄って来たが、手に半分開いたまま折り畳まれた小冊子をもっていた。
 庸三ははっとした。見てはならないものが出現したような感じだったが、彼女は涙に潤《うる》んだ目をして、本を机のうえにおくと、
「私このごろこんなものばかり読んでいるのよ。懺悔録《ざんげろく》ですのよ。トルストイも随分読んだのよ。そのお蔭《かげ》で、私もどうやら蘇生《そせい》しそうなの。過去の一切を清算して、新らしい生活を踏み出すつもりなの。先生今までのことは御免なさいね。私これから真面目《まじめ》な葉子になろうと思うの。真剣にやるつもりよ。」
 葉子は哀切な言葉でしきりに訴えた。
 ルッソオもトルストイも、彼はあまり読んでいなかった。読んで尊敬したものもあったが、読まず嫌《ぎら》いと言う方が当たっていた。しかしそれがたとい浮気な、その時々の感激であるにしても、葉子の感傷的な情熱を嗤《わら》う理由もなかった。それに彼はかつて彼女流に語られるアンナ・カレニナの筋を彼女の口から聴かされたこともあった。ただトルストイやゲイテとなると、峰が高く大きすぎて与《く》みしがたい感じだったが、今は
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