独逸人に出逢《であ》って、小夜子がはずそうとするのを、何かと揶揄《からか》い面《がお》でどこまでも附いて来たこともあった。
「あれは何さ。」
と聞いても、小夜子は「ううんいやな奴《やつ》よ」と笑っているきりだった。
ハインツェルマンは、ちょっとした門構えの家に住んでいた。小綺麗にしている、丸髷《まるまげ》の母親が玄関にすわってお辞儀したが、お玉さんも小夜子の声を聞きつけて奥から出て来た。彼女は質素な洋服を着ていたが、まん丸な色沢《つや》のあまりよくない顔が、寂しいなりににこにこしていた。髪は無論ボッブされていた。そしてどの部屋も、翻訳劇の舞台装置のようなものだったが、二階の八畳敷には、安ものの青い絨毯《じゅうたん》が敷かれて、簡素な卓子《テイブル》と椅子《いす》が並んでおり、がっちりした大きな化粧台の上に、幾つかの洋酒の壜《びん》も並んでいた。
見たところお玉さんは、単純と従順そのもののような女だったが、内心|負《ひ》け目を感じているらしく朗らかだとは言えなかった。
「カクテルでも召《め》し食《あが》りません?」
彼女は大事そうにしてある幾種かの酒の壜を覗《のぞ》きながら、卓子
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