に、風呂《ふろ》も湧《わ》いて来て、庸三は八重子に背中を流してもらいながら湯に浸った。
やがて瑠美子が寝てしまうと、環境もひっそりしてしまって、浪《なみ》の音が聞こえて来た。
「海へ出てみません?」
葉子が誘うので、ステッキをもって門を出た。ホテルの入口がすぐそこにあった。
「もしラジオをお聴《き》きになりたかったら、ホテルで聴かれますのよ。」
葉子はそう言って、ホテルの裏の小路をぬけて浜へおりて行ったが、このホテルの内容や、マスタア夫妻の生活や人柄についても、すでに感じの細かい知識をもっていた。
海は暗かった。堆高《うずたか》い沖の方が辛うじて空明りを反映させていた。それに海風も薄ら寒かった。葉子は口笛を吹きながら、のそりのそりと砂浜を歩いていたが、ふと振り返ると、マッチをつけかねていた庸三に寄り添って、袖《そで》で風を遮《さえ》ぎった。
「楽しくはない?」
「そうね。」
葉子は夢の中を歩いているような、ふわふわとどこまでも渚《なぎさ》を彷徨《さまよ》っていたが、夜の海の憂愁《ゆうしゅう》にも似た思いに沈みがちな彼女とは、全く別の世界に住んでいるような、相手が相手なので、何
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