を人にあずけておいても気がかりなので、それも手元に置きたかった。移るについて、母親からいくらか金を送ってもらっていた。母はまだまだ葉子を見棄《みす》ててはいなかった。
 庸三は折鞄《おりかばん》をさげて、ぶらりと家を出た。そしてタキシイで東京駅へ乗りつけたが、海岸の駅へ着いたころには、永くなった晩春の日もすでに暮れかけていた。
 タキシイで通る海岸の町は閑寂《ひっそり》したもので、日暮れの風もしっとりと侘《わび》しかった。庸三は何かしら悪い予感もあったが、しばしばのゴシップに怖《お》じ気《け》もついていたので、とかく落ち着けない気分だった。葉子は珍らしく、家へ帰るとすぐ鱗型《うろこがた》の銘仙《めいせん》の不断着に着かえ、髪も乱れたままで、ホテルの傍《そば》にある肴屋《さかなや》や、少し離れたところにある八百屋《やおや》へ、女中のお八重をつれて買い出しに行ったりして、晩飯の支度《したく》に働いた。尻端折《しりっぱしょ》りで風呂《ふろ》へ水を汲《く》みこみもした。
「こんな新しい海老《えび》よ、烏賊《いか》のお刺身も頼んで来たのよ。」
 葉子は肴屋から届いた海老を、庸三の前へ持って来て見
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