特にも頬《ほお》のあたりの媚《なま》めかしい肉の渦《うず》など、印象は深かったが、彼女の過去と現在、それに二人の年齢の間隔なぞを考えると、直ちに今夜の彼女を受け容《い》れる気にもなれなかった。
多分葉子に逢っての帰りであろう、翌日一色がふらりとやって来た。庸三は少し中っ腹で昨夜の葉子を非難した。
「山路草葉から僕んとこへまで渡り歩こうという女なんだ。あれが止《や》まなくちゃ文学なんかやったって所詮《しょせん》駄目だぜ。」
「そいつあ困るな。実際悪い癖ですよ。いや、僕からよく言っときましょう。」
一色は自分が叱《しか》られでもしたように、あたふたと帰って行った。
それよりも庸三は、寂しい美しさの三須藤子《みすふじこ》を近づけてみたいような気がしていた。三須は庸三のところへ出入りしていた若い文学者の良人《おっと》と死に訣《わか》れてから、世に出るに至らなかった愛人の志を継ぎたさに、長い間庸三に作品を見てもらっていた。男でも女でも、訪問客と庸三との間を、どうにかこうにか繋《つな》いで行くのは、妻の加世子であった。時とすると目障《めざわ》りでもあったが、しかし加世子がいなかったら、神経の
前へ
次へ
全436ページ中23ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング