。
「K――博士《はかせ》も一緒?」
庸三は葉子の手術のメスの冴《さ》えを見せたあの紳士のことを訊《き》いてみた。
「ううん、K――さん行かない。」
葉子は首をふった。
「あの人たちみんな罪がなくて面白いのよ。作家の人たちとまるで気分が違うわよ。」
子供と葉子のあいだに文学談が初まり、ジャアナリズムの表面へは出ない仲間の噂《うわさ》も出た。これからの文学を嗅《か》ぎ出そうとしている葉子は、しきりに興味を唆《そそ》っていたが、彼の口にする青年学徒のなかには、すでに左傾的な思想に走っている者もあって、既成文壇を攻撃するその熱情的な理論には、彼も尊敬を払っているらしかった。
「それにあいつは素敵な好男子さ。」
葉子はそういう噂を聞かされるだけでも、ちょっと耳が熱して来るほどの恋愛空想家であったが、そのころはまだそんなに勢力をもつに至らなかったマルクス青年の、それが相当新鮮なものであったので、何か颯爽《さっそう》たる風雲児が庸三にも想見されたと同時に、葉子がいつかその青年と相見る機会が来るような予感がしないでもなかった。庸三は心ひそかに少しばかりの狼狽《ろうばい》を感じないわけに行かな
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