ぎ出そうとしても、そんな問題には皆目触れることができなかった。もちろん庸三は小夜子からも、ほんの梗概《こうがい》だけしか解っていない過去を嗅ぎ出そうとして、油断なく神経を働かしているのだったが、過去どころか、現在の彼女の生活の裏さえ全く未知の世界であった。庸三にはとかく人に興味を持ちすぎる悪い習慣もあった。
そのころ銀座では、あまり趣味のよくない大規模のカフエが熾《さか》んに進出しはじめて、あの辺一帯の空気をあくどい色に塗りあげ、弱い神経の庸三などは、その強烈な刺戟に目が眩《くら》むほどだったが、高声機にかかったジャズの騒音も到《いた》るところ耳を聾《つんぼ》にした。ナンバワン級の女給の噂《うわさ》などが娯楽雑誌や新聞を賑《にぎ》わせ、何か花々しい近代色が懐《ふとこ》ろの暖かい連中を泳がせていた。小夜子のところへ雪崩《なだ》れこんで来るのも、時にはそういった連中の一部であったが、庸三も仲間の人たちと会か何かの崩れに、たまにはそういう新らしい享楽の世界へ入ることはあっても、カクテル一杯を呑むのに骨が折れるくらいなのに、性格的な孤独性と時代の距離があるので、いつも戸惑いしたような感じしか
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