真砂座《まさござ》のあった時分の下町|情緒《じょうしょ》も影を潜め、水上の交通が頻繁《ひんぱん》になった割に、だだ広くなった幹線道路はどこも薄暗かった。しかし環境の寂しい割りに小夜子の家はいつも賑《にぎ》やかであった。花柳界離れのした彼女のマダムぶりに、原稿紙やパレットに親しんでいるような人たちが、繋《つな》がり合ってどかどか集まって来た。
 小夜子はあまりお馴染《なじみ》でもない座敷だと、少しサアビスをしてから、息ぬきに銀座辺へタキシイを飛ばすこともまれではなかった。庸三は時々銀座|界隈《かいわい》で、いくらか知っている顔も見えるような家へ彼女をつれて行ったが、その中にはでくでく肥《ふと》った断髪のマダムのやっているバアなどもあった。そこは銀座裏の小ぢんまりした店で、間接に来る照明が淡蒼《うすあお》い光を漂わし、クションに腰かけて、アルコオル分の少ないカクテルを一杯作ってもらって、ちびちび嘗《な》めていると、自然に神経の萎《な》え鎮《しず》まるような気分のバアであった。彼女はよほど以前に汽車のなかで、誰とかから庸三に紹介されたことがあると言っていたが、彼女の過去の閲歴や身分も嗅《か》
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