、そこが学校を出たての葉子が、音楽学校入学志望で、かつてしばらく身を寄せていた処《ところ》であったということも、葉子を躊躇《ちゅうちょ》させたものに違いなかった。
小夜子の家では、いつもと違って、サアビスぶりはあまりよくなかった。そして今上がりぎわに、ちょっと薄暗い廊下のところでちらとその姿を見かけた小夜子が、盛装して二人の前に現われるのに、大分時間がかかった。二人は照れてしまったが、葉子は部屋の空虚を充《み》たすために、力《つと》めて話をしかけた。そこへ真白に塗った小夜子が、絵羽の羽織を着て嫻《しと》やかに入って来た。そして入口のところに坐った。
「梢《こずえ》さんでしょう。」
小夜子はそう言って、挨拶《あいさつ》すると、今夜は少しお寒いからと、窓の硝子戸《ガラスど》を閉めたりして、また入口の処にぴったり坐ったが、表情が硬《かた》かった。
葉子は立って行って、小夜子と脊比《せいくら》べをしたりして、親しみを示そうとしたが、いずれも気持が釈《と》かれずじまいであった。
「やっぱりそうかなあ。」
庸三は後悔した。するうち小夜子を呼びに来た。客が上がって来たらしかった。
「私今夜こ
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