りとしか思えなかったが、小夜子はそういうことについては、一切口を割らなかった。彼女は七年間の独逸《ドイツ》貴族との同棲《どうせい》のあいだに、あまり身に染まなかった花柳気分からだんだん脱けて、町の商人にも気分が合わなくなっていた。今ごろ髪を七三などに結って、下卑《げび》た笑談口《じょうだんぐち》などきいて反《そ》っくりかえっているそこらのお神なぞも、鼻持ちのならないものであった。今では雑誌や新聞のうえで、遠いところにのみ眺めていた文壇の人たちと膝《ひざ》を附き合わせて、猪口《ちょく》の遣《や》り取りしたり花を引いたりして、気取りも打算もない彼らと友達附き合いのできるのも面白かったし、地位や名前のある婦人たちの遊びに来るのも、感じがよかった。
 庸三は十一月ごろ一度葉子をここへつれて来たことがあった。葉子が結婚生活の破局以来、今は遠くなってしまったあの画家との恋愛の初め、一夜を過ごしたことのある水辺の家のことを、折にふれて口へ出すので、それより大分川下になっている小夜子の家を見せがてら、彼女を紹介しようと思ったのであった。それは震災後山の手へ引っ越していたある料亭《りょうてい》である晩二
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