た反抗と意地のようなものと、今まで経験したことのない、強いというよりか、むしろ孤独な老年の弱気な寂しい愛慾の断ち切りがたさのために、とかく自己判断と省察とがなまくらになって、はっきり正体を認めることのできないようなものではあったが、刻々に化膿《かのう》して行くような心の疼《うず》きは酷《ひど》かったが、――差し当たって彼が自身の本心のようなものに、微《かす》かにも触れることのできたのは、彼女の最近のヒステリックな心を、ともすると病苦と一つになってひどく険悪なものにして来る、彼への対立気分のためであった。時とすると、葉子は田舎《いなか》からとどいた金を帯の間へ入れて、病室のベッドでかけるような、軽くて暖かい毛布団《けぶとん》を買うために、庸三の膝《ひざ》のうえに痛い体を載せて、銀座まで自動車を駆りなどした。彼女の頸《くび》にした白狐《びゃっこ》の毛皮の毛から、感じの柔軟な暖かさが彼の頬《ほお》にも触れた。この毛皮を首にしていれば、絶対に風邪《かぜ》はひきッこない。――彼はそう思いながら、痩《や》せっぽちの腿《もも》の痛さを怺《こら》えなければならなかった。またある時は、内弟子に預けてある
前へ 次へ
全436ページ中181ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
徳田 秋声 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング