茶《せんちゃ》の道具などを弄《いじ》っている、その夫人のどこか洗練された趣味から推しても、工学士であるその主人に十分建築を委《まか》しきってよいように考えられたものであったが、仕事は別の大工が下受けしたものだことがじきに解って来た。人を舐《な》めたようなやってつけ仕事がやがて初まり、ばたばた進行した。手丈夫ということは、趣味の粗悪という意味で充分認められないこともなかったが、形が出来るに従って彼は厭気《いやけ》が差して来た。しかしもう追っつかなかった。費用がほとんど倍加して来たことも仕方がなかった。住居《すまい》が広くなっただけでも彼は満足するよりほかなかった。そこには古い彼の六畳の書斎だけが、根太《ねだ》や天井を修繕され、壁を塗りかえられて残されてあった。三十年のあいだ薄い頭脳と乏しい才能を絞って、その時々の創作に苦労して来たのもその一室であったが、いろいろな人が訪ねて来て、びっくりしたような顔で、貧弱な部屋を見廻わしたのも、その一室であった。そこはまた夫婦の寝室でもあり、病弱な子供たちの病室でもあった。わずか半日半夜のうちに、十二の夏|疫痢《えきり》で死んで行った娘の畳の上まで引い
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