何よりも文章から初めなくちゃ。」
 と言って笑っていたが、今のように親しくなってみると、変化に富んだ彼女の過去については、何一つ纏《まと》まった話の筋に触れることもできなかった。
 子供と平田が交通|頻繁《ひんぱん》な水の上を見ていると、やがて夕方のお化粧を凝《こ》らした小夜子が入って来た。そして胡座《あぐら》を組んだまま、丸々した顔ににこにこしている子供を見ていたが、
「こちらいつかお宅でお目にかかった坊っちゃんですの。」
 庸三も笑っていたが、あらためて平田青年をも紹介して、食べものの見繕《みつくろ》いを頼んでから、風呂《ふろ》へ入った。
 庸三はどこかこの同じ川筋の上流の家で、葉子が秋本と、今ごろ酒でも飲んで気焔《きえん》を挙げているであろうと思われて、それは打ち明けられたことだけに、別にいやな気持もしないのであったが、自身の妙な立場を考えると、何か擽《くすぐ》ったい感じでもあった。すると廊下を一つ隔《へ》だてた、同じ水に臨んだ小室《こべや》の方で、やがて小夜子がお愛相《あいそ》笑いしていると思ったが、しばらくすると再び庸三たちの方へ戻って来た時には、ビイルでも呑《の》んだものら
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