ずんだ。庸三が葉子につれられて、お浚《さら》いを見に行ったのも、それから間もないある日の晩方であった。
「私も小説が書きたくて為様《しよう》がなかったんですけどもね。」
何かごちゃごちゃ装飾の多い彼女の小ぢんまりした部屋で、気のきいた晩餐《ばんさん》の御馳走《ごちそう》になりながら、庸三は彼女の芸術的|雰囲気《ふんいき》と、北の人らしい情熱のこもった言葉を聴《き》いていたが、芸で立つ人の心掛けや精力も並々のものではなかった。話がかつての彼女の恋愛に及んで来ると、清《すず》しい目ににわかに情熱が溢《あふ》れて来た。
しかし彼女は独りではなかった。庸三が前からその名を耳にしていた若い文学者の清川がそこにいて、下町の若旦那《わかだんな》らしい柄の彼を、初め雪枝が紹介した時に、庸三はそれが彼女の若い愛人だと気づきながら、刹那《せつな》に双方の組合せがちょっと気になって、何か仄《ほの》かな不安を感ずるのであった。
「これこそ葉子に似合いだ。」
庸三はそう思った。
葉子が病室で着るつもりで作った、黝《くろ》ずんだ赤と紺との荒い棒縞《ぼうじま》の※[#「※」は「糸」+「褞」のつくり、第3水準
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