時には、すでに創口《きずぐち》が消毒されていた。やがて沃度《ヨード》ホルムの臭《にお》いがして、ガアゼが当てられた。
 医師が器械を片着けて帰るころには、葉子の顔にも薄笑いの影さえ差していた。そしてその時から熱がにわかに下がった。
 庸三は母や兄の親切なサアビスで、一日はタキシイを駆って、町から程合いの山手の景勝を探って、とある蓮池《はすいけ》の畔《ほと》りにある料亭《りょうてい》で、川魚料理を食べたり、そこからまた程遠くもない山地へ分け入って、微雨のなかを湖に舟を浮かべたり、中世紀の古色を帯びた洋画のように、幽邃《ゆうすい》の趣きをたたえた山裾《やますそ》の水の畔《ほとり》を歩いたりして、日の暮れ方に帰って来たことなどもあって、また二日三日と日がたった。
 そんな時、庸三は今まで誰か葉子の傍《そば》にいたものがあったような影も心に差すのであったが、葉子はそれとは反対に、蚊帳《かや》の外に立膝している庸三に感激的な言葉をささやくのであった。
「これが普通の恋愛だったら、誰も何とも言やしないんだわ。年のちがった二人が逢《あ》ったという偶然が奇蹟《きせき》でなくて何でしょう。」
 しかし庸
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