の同志が広間に陣取っていて、一晩中陽気に騒いでいることもあって、そういう時には葉子も庸三もいくらか警戒するのだったが、不断は気のおけない場所であった。葉子は途中で降り出されて髪を濡らしていたが、
「なかなか出て来る隙《すき》がなかったもんで、八百屋へ買いものに行くふりして、途中で捩《も》ぎ放して来たの。あの人は私が先生にお金もらうことを、大変いやがってるの。」
「話したの?」
「そうじゃないけれど。」
 庸三は苦しい時の小遣《こづか》い稼《かせ》ぎだという気もしながら、彼女の生活報告には興味があった。
「このごろ何か書いてる?」
「私たちは書く時は二階と下なのよ。私は下で書くのよ。清川は書けなくて困ってるの。私がぐんぐんペンが走るもんだから、なお苛《いら》つくらしいの。」
「君が仕事させないんだろ。」
「ううん、書く時はやっぱり独りがいいと思うわ。」
「君の書くものは気に入るまい。ペしゃんこにやられるんじゃないか。」
「ううん、よく議論はするけれど――。」
 見るたびに葉子は生活に汚《よご》れていた。風呂《ふろ》へ入るとき化粧室で脱ぎすてるシミイズの汚れも目に立ったが、ストッキングの踵《かかと》も薄切れていた。相変らず賤《さも》しい愚痴も出て、たまに買って来る好きなオレンジも、めったに彼女の口へ入らず、肉や肴《さかな》も思いやりなく浚《さら》われてしまうのだそうであった。継子《ままこ》のように、葉子はそれが何より哀《かな》しげであった。
「こないだお金に困って、十掛けばかりある半襟を売ってもらおうと思って、阿母《おっか》さんに話したら、十円に買ってくれたの。あの中には一掛け十円するものもあるのにさ。」
 もちろん葉子も真実《ほんとう》はそうお嬢さんなわけでもなかった。
「結婚してくれないのか。」
 庸三が訊《き》くと、
「それもあの当時、貴女《あなた》なら似合いの夫婦だから、ちゃんと取りきめると言っていたものなのよ。でもお父さんが少し頑固《がんこ》なの。何しろあの家《うち》は、夫婦の反《そ》りが合わないの。お父さんという人は下町の商人気質の堅い一方なところへ、阿母さんは読書の趣味もあるし、昔の江戸ッ児《こ》風の教養や趣味があるもんで、清川兄弟が文学へ進むことにも共鳴があるわけなの。妹さんだって油画《あぶらえ》かきだわ。みんな阿母さん系統なわけなのよ。それにしても私に
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