いうことから、あの人たちにはすでにそういった、有る処《ところ》から取ってやるのが当然だという、生活の必要から割り出された太《ふ》て腐れの感情があるのだと、葉子は話して、
「草葉さんはいつ約束の金をくれるんだと言って、よく催促したものよ。私が母からもらって持って行ったお金もみんな使ってしまって。」
しかしこのマルクス・ボオイもブルジョアの一人|息子《むすこ》だけに、葉子が想像したほど、内容にぶつかって行くのは容易でなかった。そうするのはやはり普通の世間の令嬢のような、舅姑《しゅうとしゅうとめ》にも柔順で、生活も質素な幾年かを、じっと辛抱しなければならないのであった。恋愛だけを切り放して考えることもできなかった。
ある日の午後、庸三と葉子はまだ秋草には少し早い百花園を逍遙《しょうよう》していたが、楽焼《らくや》きに二人で句や歌を書きなどしてから、すぐ近くの鳥金へ飯を食べに寄ってみた。そこは古くからある有名な家《うち》で、どこにいても誰とも顔の合うことのないように、廊下や小庭で仕切られた芝居の大道具のような古風な幾つかの部屋をもった落着きのいい家であった。
いつかも月の好い秋の晩に、水の好きな葉子に促がされて、濛靄《もや》のかかった長い土手を白髯橋《しらひげばし》までドライブして、ここで泊まったことがあったが、怪談物の芝居にあるような、天井の低い、燻《いぶ》しのかかった薄暗い部屋で、葉子はわざと顔一杯に髪を振り乱して、彼にのしかかって来たりしたのだったが、すでに二つの恋愛事件で、自身も苦しみ庸三もさんざん苦い汁《しる》をなめて、憎悪の言葉さえ投げつけたあとでは、気分の融《と》けあうはずもなかった。
名物の蜆汁《しじみじる》だの看板の芋の煮ころがしに、刺身鳥わさなどで、酒も二猪口《ふたちょこ》三猪口口にしたが、佞媚《ねいび》な言葉のうちに、やり場のない怨恨を含んで、飲みつけもしない酒の酔いに目の縁をほんのりと紅《あか》くした葉子が、どうかするとあの時の新聞記事のことで、ちくちく愚痴をこぼすので、庸三は終《しま》いにはただ卑屈に弁解ばかりもしていられなかった。
風呂《ふろ》に入ってから、二人はいつかの陰気な居間で休んだのだったが、しばらくすると葉子は細紐《ほそひも》をもって彼にのしかかって来たかと思うと、悪ふざけとも思えない目色《めつき》をして、それを庸三の首に捲
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