どうだか解《わか》らないけれど……。」
「いずれにしても君がしっかりしていさえすればいいわけなんだが、しかしそういう人の取扱いじゃ園田君も可哀《かわい》そうじゃないか。」
「しかし条件は園田本位でしょうから、私の立場があまり有利じゃないかもしれないのよ。あの人自身の気持の動きはまた別よ。それにあの人だって、私を不利益な立場に陥《おとしい》れて、そこに附けこんで来ようというほど非紳士的でもないでしょうけれど、そういう打算は別としても、とにかく、私に対する条件はあまりよくないでしょうと思うの。」
 葉子の口吻《くちぶり》から察すると、黒須は結婚の話を進めるというよりも、その前提として、葉子自身の結婚生活に入ってからの心構えについて、しっかりしたことを確かめておきたいという希望であろうということは、庸三にも気のつかないことではなかった。果してほんとうに貞淑な家庭婦人となることができるか否か、当てがわれた金額の許す範囲以内で、節約的な生活ができるかどうか――そういった問題が、庸三をオブザアヴァとして黒須から提出されるのではないかと考えた。しかし庸三自身にしても、彼女に園田のような輝かしい前途をもっている青年との結婚生活に入るに当たっては、ぜひとも葉子に要望しなくてはならないはずのもので、その覚悟次第で、この問題を解決するわけだが、しかしそうした葉子の新生活への心構えや決心については、真実《ほんとう》のところ庸三の手にも鍵《かぎ》が握られてあるわけではなかった。鍵は葉子自身のうちにあるはずであった。もしも庸三が保証の立場におかれるとしても、責任をもつわけにも行かないと同時に、葉子の生活の方嚮《ほうこう》を、無理な急角度で転向させようとすることも無意味であった。それは葉子という一人の存在を亡くするというのと同じことであり、従って現在の狂熱的恋愛の発生もないはずであった。
 しかし一方また庸三は別の甘い考え方ももっていた。それは相手次第によっては、彼女もまた日常の万事に気のきいた楽しい家庭婦人となりうるのではないかと思われた。編み物に刺繍《ししゅう》、そんなことも好きであった。ちょっと雑誌を見ただけで、どんなむずかしい編み方も頭へ入れたし、部屋の装飾や料理にも彼女自身の趣味があった。読書も好きであった。文学の才能も、世間で見くびっているほど低劣ではなかった。庸三の傍《そば》にいる
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