夢心地をすやした。
四時頃に、二人は一緒に海岸へ出て見た。日は大分傾いてゐたが、風が出たので、海には波が少し荒れてゐた。焦《こ》げつくやうな砂を踏んで彼女は汀《みぎは》に立つて、ぼんやり波の戯れを見てゐたが、長く立つてゐられなかつた。目がくらくらして波と一緒に引込まれて行きさうであつた。海水衣に海水帽をかぶつた、女学生らしい女の群が、波に軽く体を浮かせながら、愉快さうに毬投《まりなげ》をやつてゐるのが彼女には不思議にも羨《うらや》ましくも思はれた。印度人のやうな黒い裸体が、そこにもこゝにも彼女の目を驚かした。
二人はやがて着物の脱ぎ場へ入つて、足を休めながら海気に吹かれてゐた。彼は彼女をかうした自由な自然の前へつれて来たことに、この上ない幸福を感じてゐるらしかつたが、彼女の頭脳《あたま》は其の感じを受容《うけい》れるには、余りに自分を失ひすぎてゐた。
するとその時、ぽうと云ふ空洞《うつろ》な汽笛《きてき》の音が響いて、いつの間にか汽船が一艘黒い煙を吐きながら、近くの沖へ来て碇泊《ていはく》してゐるのに気がついたが、間もなく漕ぎ寄つた一艘の端艇《はしけ》に、荷物や人を受取つて、陸《
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