むやうな癖のあるのも、トラホームや近眼のせゐではないらしかつた。頭脳《あたま》はひねてゐたし、子供にしては利害の打算も割方はつきりしてゐたが、大きくなるにつれて、何か生理的な欠陥が現はれて来さうな気がしてならなかつた。
蓮見の家庭でも咲子のことが噂されてゐた矢先きで、頭脳が異常に発達してゐるのは、反つて頭脳の悪い証拠ぢやないかとさへ言はれてゐた。
「どうだ少しお前にあづけて見ようか。」
蓮見が長女の藤子に言ふと、
「さうね、『一つ母の手で』やつて見ませうか。」
と笑談《ぜうだん》を言つて笑つた。
咲子の能弁と剛情は、一週間もたたないうちに、皆んなを呆《あき》れさせてしまつた。蓮見が行つてみると、いつも彼女は茶の間の集まりのなかにゐて、時には藤子の脇にちやんと坐りこんで、餉台《ちやぶだい》のうへに煮立つてゐる牛肉で御飯を食べてゐることもあつたし、子供部屋で妹の鞠子《まりこ》の着物に縫ひあげをしてもらつて、着せられてゐるのを見たこともあつた。タプリンも圭子が買つたものより好いものを着せられてゐた。眼科へは家政をやつてゐるをばさんが、連れて通《かよ》つた。
圭子は留守の間に電話をい
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