のに過ぎなかつたが、それでも木山の負つた傷は大きかつた。好い儲《まう》け口《ぐち》があるからと言つて、飛びこんで来た知り合ひの大工は、外神田の電車通りに、羅紗《らしや》や子供服や釦《ボタン》などの、幾つかの問屋にするのに適当な建築を請負つて、その材料を分の好い条件で、木山に請け負はせる話を持ちこんだのだつた。お茶を持つて店へ出て来た晴代も見てゐる前で、木山は連《しき》りに算盤《そろばん》をぱちぱちやりながら、親方に謀《はか》つてゐたが、総てはオ・ケであつた。木山の納屋《なや》には、米杉《べいすぎ》の角材や板や、内地ものの細かいものが少しあるだけだつたが、方々駈けまはつて漸《やつ》と入用《いりよう》だけのものを取そろへ、今度こそは一《ひ》と儲《まう》けする積りで、トラック三台で搬《はこ》びつけたのだつたが、工事は中途から行き悩みで、木山が気を揉《も》み出した頃には、既に親方も姿を晦《くら》ませてゐた。其の結果、親店とも相談のうへ、彼は店を畳んで、当分仕舞うた家へ逼塞《ひつそく》することになつた。商売には器用な木山だつたので、真木は一時自分の店へ来て働くやうにと勧めてみたが、木山にも若い同
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