士の見えがあつた。今更ら人に追ひ使はれる気にもなれなかつた。しかし結局は親店の仕事を手伝ひ旁々《かた/″\》自分の儲け口を見つけるより外なかつた。しかし怠け癖のついた木山は、こつ/\初めから出直すといふ心構へには容易になれなかつた。夜遊びの癖を矯《た》めるのも困難だつたが、一度崩れたものを盛り返さうなどと云ふことは、考へるだけでも憂欝《いううつ》であつた。働いたものにしろ、甘い母親から貰つて来たものにせよ、少しでも懐ろに金が入ると、彼は浅草辺をふら/\した。何《ど》うせ追つかない世帯だと思ふと、持つて帰る気もしなかつたが、遊び気分は何といつても悪くなかつた。金離れのいい彼は到《いた》るところ気受けが好かつた。近所の麻雀《マージャン》ガールやゲーム取りにもちやほやされたが、家《うち》の人達とも家族的に能《よ》く晴代にお座敷をかけて遊んだ待合の女将《おかみ》や、いつも花の宿になつてゐる芸者屋、そこへ集まる役者、小料理屋の且那、待合のお神たちといつた連中にも、好い坊ちやんにされてゐた。
その頃木山は、一時下火になつてゐた牛込の女が、ちやうど好い旦那を捉《つかま》へたところで、好い意味での紐
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