てゐる若い朋輩の援護隊として、二三人一組になつて、函嶺《はこね》へドライブした時には、留守が気になつて、まだ夜のあけないうちに、散々に酔ひつぶされた二人の客を残して、皆んなで引揚げて来たのだつたが、呑気《のんき》ものの木山は、戸締りもしないで、ぐつすり寝込んでゐた。晴代は何か後暗いやうな気がして、食卓のうへに散らかつたものを取り片着け、いつも通りに炊事に働いたが、その音に目をさました木山は、昨夜の話を「ふむ、ふむ。」と唯聞いてゐるだけで、何だか張り合ひがなかつた。
 一隊で吉原へ繰りこんだこともあつた。鈴蘭で雑炊《ざふすゐ》を食べてから、妓楼へ押し上つたのだつたが、花魁《おいらん》の部屋で、身のうへ話をきいてゐるうちにいつか夜が更《ふ》けて、晴代は朝方ちかい三時頃に、そつと其処を脱け出し引手茶屋のお辰を呼びおこし、そこに泊めてもらつたことから、彼女のカフヱ勤めも、母に知れてしまつたのだつた。
「ちよつと拙《まづ》かつたね。」
 見え坊の木山が、晴代のカフヱ通ひを内心恥かしく思つてゐることも、それで解つた訳だつたが、それよりも晴代が銀座へ勤めるやうになつてから、彼の惰性的な遊び癖も一層|
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