るらしかった。けれど養父母はお島に詳しいことを話さなかった。
「貧乏くさい商売だね」お島は自分の稚《ちいさ》い時分から居ずわりになっている男に声かけた。その男は楮の煮らるる釜の下の火を見ながら、跪坐《しゃが》んで莨《たばこ》を喫《す》っていた。
 顎髯《あごひげ》の伸びた蒼白い顔は、明い春先になると、一層貧相らしくみえた。
「お前さんの紙漉も久しいもんだね」
「駄目だよ。旦那《だんな》が気がないから」作《さく》と云うその男は俛《うつむ》いたまま答えた。「もう楮のなかから小判の出て来る気遣《きづかい》もないからね」
「真実《ほんとう》だ」お島は鼻頭《はなのさき》で笑った。

     四

 お島は幼《ちいさ》い時分この作という男に、よく学校の送迎《おくりむかい》などをして貰ったものだが、養父の甥《おい》に当る彼は、長いあいだ製紙の職工として、多くの女工と共に働かされたのみならず、野良仕事や養蚕にも始終|苦使《こきつか》われて来た。そうして気の強い主婦からはがみがみ言われ、お島からは豕《ぶた》か何ぞのように忌嫌《いみきら》われた。絶え間のない労働に堪えかねて、彼はどうかすると気分が悪いと
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