いって、少し遅くまで寝ているようなことがあると、主婦のおとらは直《じき》に気荒く罵った。
「おいおい、この忙《せわ》しいのに寝ている奴があるかよ。旧《もと》を考えてみろ」
おとらは作の隠れて寝ている物置のような汚いその部屋を覗込《のぞきこ》みながら毎時《いつ》ものお定例《きまり》を言って呶鳴《どな》った。甲走《かんばし》ったその声が、彼の脳天までぴんと響いた、作は主人の兄にあたるやくざ[#「やくざ」に傍点]者と、どこのものともしれぬ旅芸人の女との間《なか》にできた子供であった。彼の父親は賭博《とばく》や女に身上《しんしょう》を入揚《いれあ》げて、その頃から弟の厄介ものであったが、或時身寄を頼って、上州の方へ稼《かせ》ぎに行っていたおりにその女に引かかって、それから乞食のように零落《おちぶ》れて、間もなくまた二人でこの町へ復《かえ》って来た。その時身重であったその女が、作を産《うみ》おとしてから程なく、子供を弟の家に置去《おきざり》に、どこともなく旅へ出て行った。男が病気で死んだと云う報知《しらせ》が、木更津《きさらず》の方から来たのは、それから二三年も経《た》ってからであった。
お
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