うち》のなかには始終湿っぽく、陰惨な空気が籠《こも》っているように思えた。そして終日庭むきの部屋で針をもっていると、頭脳《あたま》がのうのうして、寿命がちぢまるような鬱陶《うっとう》しさを感じた。お島は糸屑《いとくず》を払いおとして、裏の方にある紙漉場《かみすきば》の方へ急いで出ていった。
薮畳《やぶだたみ》を控えた広い平地にある紙漉場の葭簀《よしず》に、温かい日がさして、楮《かぞ》を浸すために盈々《なみなみ》と湛《たた》えられた水が生暖《なまあたた》かくぬるんでいた。そこらには桜がもう咲きかけていた。板に張られた紙が沢山日に干されてあった。この商売も、この三四年近辺に製紙工場が出来などしてからは、早晩|罷《や》めてしまうつもりで、養父は余り身を入れぬようになった。今は職人の数も少かった。そして幾分不用になった空地《あきち》は庭に作られて、洒落《しゃれ》た枝折門《しおりもん》などが営《しつら》われ、石や庭木が多く植え込まれた。住居《すまい》の方もあちこち手入をされた。養父は二三年そんな事にかかっていたが、今は単にそればかりでなく、抵当流れになったような家屋敷も外《ほか》に二三箇所はあ
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