黒い汚点《しみ》が出来たように思われた。そしてそれからと云うもの、出来るだけ養父母の秘密と、心の傷を劬《いたわ》りかばうようにと力《つと》めたが、どうかすると親たちから疎《うと》まれ憚《はばか》られているような気がさしてならなかった。
 六部の泊ったと云う、仏壇のある寂しい部屋を、お島は夜《よる》厠《かわや》への往来《ゆきき》に必ず通らなければならなかった。そこは畳の凸凹《でこぼこ》した、昼でも日の光の通わないような薄暗い八畳であった。夫婦はそこから一段高い次の部屋に寝ていたが、お島は大きくなってからは大抵《たいてい》勝手に近い六畳の納戸《なんど》に寝《ねか》されていた。お島はその八畳を通る度《たんび》に、そこに財布を懐ろにしたまま死んでいる六部の蒼白《あおじろ》い顔や姿が、まざまざ見えるような気がして、身うちが慄然《ぞっ》とするような事があった。夜はいつでも宵の口から臥床《ふしど》に入ることにしている父親の寝言などが、ふと寝覚《ねざめ》の耳へ入ったりすると、それが不幸な旅客の亡霊か何ぞに魘《うな》されている苦悶《くもん》の声ではないかと疑われた。
 陽気のぽかぽかする春先などでも家《
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